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友人が失恋した話、活字と実際の言葉の間、鎧の内側

「恋人にフラれた」

 

しばらくぶりにLINEをしてきた友人がそう言う。1年程付き合った恋人だったそうだ。はて。私は彼女に恋人がいたことすら知らなかった。けれど、明らかなのはただひとつで、恋人と別れることはいつだって誰にだって辛いことだ。街中に立って、誰彼構わず「私はいま世界一かわいそうな人間なんですよ、どうにかしてよ」と話しかけたくなるくらい辛いことだ(実際そうしたところで残るのは惨めさだけなので、多くの人はそうしない)。だから彼女が私に話しかけてきた理由はわかる。

話の筋に少し関係するから書いておくと、友人はほぼレズビアンだ。なぜ「ほぼ」かというと、彼女にはかつて男性の恋人がいて、今でももしかしたら男性とセックスくらいはできるんじゃないかという私の予測にある。けれど本人は否定するだろうし、実際、彼女と知り合ってからの6年間、歴代の彼女の恋人はすべて女性だ。今回、不幸にも破局してしまった恋人も例に漏れず。

別れた理由は割とシンプルで、彼女(私の友人)が恋人の仕事のスタンスにケチをつけたかららしい。率直に言うと、彼女の恋人は29歳にしてアルバイターだったそうだ。彼女からすればそれは不安の種でしかない。だって彼女はレズビアンとして生きる覚悟がある程度できている。それはイコール自分を自分で食わしていかないといけないという覚悟だ。ヘテロのカップルでさえ今や女も働かないと、という時代なのに、レズビアンのカップルだったらその意志はもっと固いだろう。それなのにアラサーでアルバイターで将来のビジョンを持たない(らしい)恋人の存在が彼女を悩ませたことは容易に想像できる。

 

「まあどうしようもないよ。縁がなかったんだろうね」

 

彼女は言う。まあおっしゃる通りなのだけど、1年付き合った末の結論としてはあまりにあっさりとしすぎている。なんとなく気にかかったものだから私は彼女に直接電話を掛けてみた。

 

「もうベッドだよ~…」

 

生気のない声がそう言う。まだ21時前なのに。聞けばロクにモノも食べられず、体はペラペラらしい。LINEのメッセージとは裏腹に、実際の声として聞く彼女の言葉からは未練未練未練、それしか感じられなかった。いまだに元恋人と連絡を取っているし、週末にはその元恋人へ会いに東京まで行くという(彼女は福岡在住)。

こんなことがあるから実際に声を聞くという行為は大切だと感じる。人は自分の意思に反して何かを失くしたとき、虚勢を張ろうとするものだ。なんでもないと、平気なんだと。それは自分を惨めな存在たらしめたくないからだ。街中で「自分は世界一かわいそうだ」と叫べないように。誰だって自分の人生を自分の思い通りにいかせたい。でもそんなことはできない。人生は舞台で、そのシナリオは神のみぞ知るのだ。

人の虚勢は活字のメッセージに顕著に表れる気がする。文字を打つという行為には、実際に話すよりいささか理性を働かせる間があるのだろう。言葉にできることに本当のことなんてない、という気さえする。とにかく実際に声を使って「どうしたの?」と聞いてみると、彼女達の心は容易く、ほろほろとほぐれる。涙を流す子だっている。彼女達の強がりは、毛を逆立てて威嚇する猫を思わせる。だからたまに笑ってしまう。

 

なんだよ、辛いならそう言えよ。

 

そして、私は彼女達の鎧の内側の柔らかく繊細な部分を心から愛する。どうしたってこんな可愛い子たちが辛い目に遭わなければいけないのかと苦しくなる。

パートナーがいるから人生万々歳というわけではもちろんない。けれど、ヘテロでもレズビアンでもゲイでも自分のかたわれを探す行為は極自然なものだと私は思う。だから、せめて私の好きな人達が愛おしいと思える人に出会い、その人が彼女達の柔らかい部分を愛してくれるといい。猫のように甘やかしてくれるといい。